自分は時代劇マニアでは全くないので知識は薄いのだけれども、観賞は大変好きな方。恐らく父親の影響かと思われる。
時代劇というとチャンバラか、もしくは水戸黄門に代表される勧善懲悪系みたいな印象があるけれども、それぞれの味を押し出した作品もある。
そのひとつ、というよりは圧倒的に世界観が異質なのが、萬屋錦之介演じる子連れ狼。子連れ狼は場面だけを切り出してネタにされることが多く、大五郎に絡んだシーンやガトリングガンのような銃兵器を装備した箱車が話題になるが、実際には非常に特質的でめずらしい「悲しみ」しかない時代劇だと思う。大五郎の父親たる拝一刀は本当に笑うことがない(敵の城内に入ってフハハハハハハとか笑うことはあるけれども)。冥府魔道の刺客(これは「しかく」なのか「せっかく」なのか正しい読み方がわからないけれども、劇中では「しきゃく」と読んでいた気がする)道をゆく悲しい姿が描かれている。敵(暗殺相手)を倒してもなお喜ぶことなく旅が続くだけなのだ。
子連れ狼にはたくさんの特徴があるけれども、その中でも「語りによる解説がある」点と「どうみても特撮である」点がたまらない。前者は攻殻機動隊を思わせる「用語は基本的に解説」なアナウンスが心地よい。こういう心意気はアニメ版北斗の拳の拳法解説にも通じるところがあると思う。後者(特撮である点)は例えばジャンプ切りをするときには3回くらいスローモーションの繰り返してがあってわざとらしいジュワジュワジュワみたいな効果音がなる。仮面ライダーみたいだけれども、こういう技法の後に結構グロめのシーン(血は赤で描写している)が来るので笑えない。やはり非情にはこだわりがあるのだろう。
特徴があることもさながら、一番素敵だと思えるのは萬屋錦之介による真剣勝負な演技。萬屋錦之介さんはもう亡くなっており非情に残念だけれども、この映像に残した手に汗握る演技は映像として残っている。他にもたくさん出演されている方だが、群を抜いて子連れ狼が良い。ふざけたシーンはなく、いつでも真剣勝負というまなざしは本作品輝いている。ブルース・リーの映画が面白いと思える人は共感する部分が多いのではないかと思う。彼も真剣さが映画に満ちあふれた人であったから。
子連れ狼について最後にどうしても触れたい部分があって、それは背景で鳴る音楽。打楽器などの効果音しかならない曲とか恐怖というかもう、洋物だとターミネーターのサントラに近い部分がある。その他、叙情的な笛の音からファンクな曲まで非情に多彩で、これも時代劇という括りを逸脱している。また効果音も絶品で非常に悲劇的な切り裂き音などが堂々と使われているし、上述したようないかにも特撮な効果音も頻出する。
さて、ここまで子連れ狼一色に書いてしまったけれども、他の時代劇だと鬼平犯科帳が好きで、中村吉右衛門演じる長谷川平蔵が悪人に情状的であり同時に鬼のように厳しい人間である面を多様に演出している。片岡鶴太郎も出演する大変面白い時代劇の一つ。音楽も良くて、ジプシー・キングスの「インスピレーション」が流れるエンディングテーマからも音楽のこだわりが感じられる。
念のために書いておくと、自分は暴れん坊将軍も好きだし、大岡越前や遠山の金さんも好きだけれども、勧善懲悪系のジャンルからは独走しているジャンルの時代劇を観てみるのも良いと思う。時代劇は決して古くさくない。描かれている対象の時代が古いだけで、非常に現代的なドラマだ。お銀の入浴シーンが売りでは決してない。